2016年5月20日金曜日

第33回日本家族研究・家族療法学会 長崎大会で自主シンポジウム


日本のEE(expressed emotion)研究, いま, これから-障害のある子どもの家族やケアする看護職の感情表出

 

上原 徹(高崎健康福祉大学大学院), 米倉 裕希子(関西福祉大学), 香月 富士日(名古屋市立大学)

 
家族の感情表出(EE: expressed emotion)は,精神障害や慢性的な困難を抱えた当事者の家族が示す情緒的態度の指標です。統合失調症の再発との有意な関連性が実証されて以降,世界で多くの研究が展開されています。日本では1991年に「分裂病と家族の感情表出」が三野・牛島により翻訳出版され,この魅力的な概念は瞬く間に我が国の心理教育や家族支援にかかわる専門家, 社会精神医学の研究者に広まりました。さかのぼる1989年末には, ロンドン大精神医学研究所に留学していた三野らが中心となり, 公式評価法であるキャンバーウエル家族半構造化面接(CFI)のトレーニングセミナーが本邦で開かれ, 認定評価者が誕生しました。のちに彼らは,優れたEE研究を日本から発信することになるのです。
ほぼ期を一にして,米国で開発された簡便EE評価法である5分間スピーチサンプル(FMSS)の認定訓練が,1992年に長崎で行われた。長崎大学有志のバックアップにより,米国よりトレーナーが式根島に来日し,公式評価者が多数誕生しました。1990年代は,FMSSを用いた多様な臨床研究が報告され,活況を呈しました。
EE概念は心理教育発展の理論基盤となり,家族心理教育ツールキットの開発や心理教育家族教室ネットワークの創始につながったのです。
2000年代に入り,自記式質問紙であるFamily Attitudes Scale Nurse Attitude Scaleが開発されました。しかし現在,関心を示す研究者や臨床家は決して多くありません。EEをテーマにした演題発表も,きわめて少ないです。一方欧米では、コンスタントにEEに関する一定レベルの原著論文が掲載されています。EE研究と実践には,公認評価者によるレイティングが必須ですが、残念ながら,日本でCFIFMSSの認定研修は久しく行われていません。

 本シンポジウムでは,上原がEE概念および評価法の概要を解説し,2000年代から今に至る内外のEE研究を紹介します。ついで、現在まで日本のEE研究を地道に牽引してきた代表的な研究グループから2名をお招きし,それぞれの研究と課題を発表していただきます。

米倉先生には障害のある子どもの家族のEEについて一連の研究と,今後の家族支援に向けた試みを報告いただきます。従来、障害のある子どもの家族研究は,家族の障害受容に焦点が当てられており,「受容」の概念は曖昧であり課題も多く残されていました。障害のある子どものEE研究は,家族の状態を客観的に把握し,必要な支援を導き出すのに有効と考えられます。
香月先生は,看護スタッフが当事者に示すEEを評価する新たな尺度の開発と,それらが支援者のメンタルヘルスに関連するという研究を紹介します。討論では,高EE家族やスタッフのhigh-EEをどう理解するか,low-EEのモノローグ(表出や態度)の解釈について,今後の評価者認定の再構築,などを議論できればと考えています。
EEは,家族や支援関係者のニーズを顕し,外在化を促し,包括家族支援の効果判断指標になります。ふたたびEE研究を興し展開する端緒とすべく,日本におけるFMSS発祥の地である長崎で,本シンポジウムを企画しました。
 
関心のある方は是非ご参加ください