2016年12月21日水曜日

師の訃報

今月のはじめ、

精神医学研究の師匠である、

佐藤哲哉 先生(前 ミュンヘン大学教授 -Ludwig-Maximilians-Universität München)の訃報が、

佐藤哲哉グループ筆頭メンバーであった、故 坂戸薫 氏の奥様より、届いた

生前お会いする機会を、千曲荘病院で、ほんの2-3か月であったが、いただくことができた

今思うと、奇跡のような、ご縁であった

長らくドイツで過ごされていた、哲哉先生であるが、

ミュンヘンから奥様が来日され、千曲荘病院の遠藤先生と坂戸先生の奥様が、お逢いになった

懇談のご様子を、聞かせていただけた

亡くなられたのは、夏のころという

ドイツの教会で、あちらのご家族に見守られ、永眠された

こころあたたまる、ご葬儀の様子であった

佐藤哲哉グループの業績は、世界でそれなりの位置づけや評価をいただいていると、専門の皆様から伺っている

佐藤哲哉氏の業績が、今、人心に与えるインパクトを、いまここで論じるには、まだ整理つかぬが、

いずれは、しっかりとした総説をまとめねばなるまい

薫陶を受けた後輩として、そのDNAをどれほど引き継げているか、反省している

先週、グループの最若手であった桑原秀樹先生、そして坂戸美和子先生が高崎につどってくださった

両先輩を偲ぶ会、存分にかたりあうことができた

なつかしくも、悲喜こもごもを伴にした想いで、きびしくもたのしい思い出、それぞれの歩んだ道行、、、

なくなられたお二人から学んだ研究の体験が、私を支えてくれております

こころより、哲哉先生の冥福をお祈りします












2016年10月26日水曜日

こころの科学 190 「子供の薬物療法」


福田正人、浦野葉子、毛呂佐代子、成田秀幸、上原徹
 
子どもの向精神薬治療-薬物療法以前.
 
こころの科学、p21272016
 
共著に、お声掛けいただきました
 
どうぞ、ご高覧下さい

2016年5月20日金曜日

第33回日本家族研究・家族療法学会 長崎大会で自主シンポジウム


日本のEE(expressed emotion)研究, いま, これから-障害のある子どもの家族やケアする看護職の感情表出

 

上原 徹(高崎健康福祉大学大学院), 米倉 裕希子(関西福祉大学), 香月 富士日(名古屋市立大学)

 
家族の感情表出(EE: expressed emotion)は,精神障害や慢性的な困難を抱えた当事者の家族が示す情緒的態度の指標です。統合失調症の再発との有意な関連性が実証されて以降,世界で多くの研究が展開されています。日本では1991年に「分裂病と家族の感情表出」が三野・牛島により翻訳出版され,この魅力的な概念は瞬く間に我が国の心理教育や家族支援にかかわる専門家, 社会精神医学の研究者に広まりました。さかのぼる1989年末には, ロンドン大精神医学研究所に留学していた三野らが中心となり, 公式評価法であるキャンバーウエル家族半構造化面接(CFI)のトレーニングセミナーが本邦で開かれ, 認定評価者が誕生しました。のちに彼らは,優れたEE研究を日本から発信することになるのです。
ほぼ期を一にして,米国で開発された簡便EE評価法である5分間スピーチサンプル(FMSS)の認定訓練が,1992年に長崎で行われた。長崎大学有志のバックアップにより,米国よりトレーナーが式根島に来日し,公式評価者が多数誕生しました。1990年代は,FMSSを用いた多様な臨床研究が報告され,活況を呈しました。
EE概念は心理教育発展の理論基盤となり,家族心理教育ツールキットの開発や心理教育家族教室ネットワークの創始につながったのです。
2000年代に入り,自記式質問紙であるFamily Attitudes Scale Nurse Attitude Scaleが開発されました。しかし現在,関心を示す研究者や臨床家は決して多くありません。EEをテーマにした演題発表も,きわめて少ないです。一方欧米では、コンスタントにEEに関する一定レベルの原著論文が掲載されています。EE研究と実践には,公認評価者によるレイティングが必須ですが、残念ながら,日本でCFIFMSSの認定研修は久しく行われていません。

 本シンポジウムでは,上原がEE概念および評価法の概要を解説し,2000年代から今に至る内外のEE研究を紹介します。ついで、現在まで日本のEE研究を地道に牽引してきた代表的な研究グループから2名をお招きし,それぞれの研究と課題を発表していただきます。

米倉先生には障害のある子どもの家族のEEについて一連の研究と,今後の家族支援に向けた試みを報告いただきます。従来、障害のある子どもの家族研究は,家族の障害受容に焦点が当てられており,「受容」の概念は曖昧であり課題も多く残されていました。障害のある子どものEE研究は,家族の状態を客観的に把握し,必要な支援を導き出すのに有効と考えられます。
香月先生は,看護スタッフが当事者に示すEEを評価する新たな尺度の開発と,それらが支援者のメンタルヘルスに関連するという研究を紹介します。討論では,高EE家族やスタッフのhigh-EEをどう理解するか,low-EEのモノローグ(表出や態度)の解釈について,今後の評価者認定の再構築,などを議論できればと考えています。
EEは,家族や支援関係者のニーズを顕し,外在化を促し,包括家族支援の効果判断指標になります。ふたたびEE研究を興し展開する端緒とすべく,日本におけるFMSS発祥の地である長崎で,本シンポジウムを企画しました。
 
関心のある方は是非ご参加ください

2016年3月22日火曜日

卒業生への、ささやかなメッセージ

「過去もない、未来もない、あるのは今」

「その一瞬、一瞬を、生ききる」


このことは、アップルの創始者であるスティ-ブ・ジョブズ、

仏教におけるサティsatiや念、

最先端の心理療法の1つであるマインドフルなど、

これまで、著明な人々が語り、多くの信仰の中でさししめされてきています


しかし、私たちは、つい、


「あの時こうしておけば、、」


「この先こんなになったらどうしよう、、、」


と、心が目の前の豊かな現実世界から、離れてしまいがちです


でも、今、私たちが感じ、見聞きし、思考している、


この1秒、1秒、、、


これは、どんな人にとっても平等に訪れます


そのつながりが、過去から未来へと、向かっていく


一方で、時や地球、宇宙から見たならば、

このようにとらえることが、できることを教えていただきました



「この瞬間、瞬間は、私たちを、しっかり掴んではなさない」


実は、時が私たちを、捉えてくれている


そして、このことを見つめられる時、私たちは、


かけがえのない、今を、豊かに生き切っているのかもしれません

2016年1月19日火曜日

保健福祉学専攻長としての抱負と展望


 

保健福祉学とはどんな研究分野なのでしょうか?一般的に知られている保健学は、「Health Sciences」の邦訳で、健康の探求とその維持・増進を目的とする諸科学を統合した総合科学のことです。そこに福祉「Welfare」の視点や方法論を加味し、保健医療と教育・心理・社会経済などの学際融合を目指す学問領域を指します。ライフサイクルにおける身体・精神・社会的な健康増進、家族や社会関係を発達的視点に基づき支援するための保健福祉システム、それを支えるマンパワーやリソースの確立などがテーマとなります。

 

関係する領域や専門性は極めて学際的で、包含される方法論も、いわゆる公共的な手続きを踏む数量的研究から、理論概念研究、場合によっては質的なモノグラフまで多岐にわたります。よく言えば多彩で魅力的、異分野連携が不可欠であり、大変興味深いテーマがたくさん存在する世界です。しかし、それ故に、アイデンティティーを失いかねない事態も起こりえます。・・・私の専門はいったいなんだろうか?

 

こうした多様性に宿る本質とは、いったいどのように培われるのでしょうか?それには、研究内容や領域に目をむけるばかりでなく、どこで、だれと、どのような、どんな時代や未来に向けて、誰のために行ったか?こうした問いに向き合うことが、必要なのかもしれません。保健福祉学に関わる研究者や実践者の存在意義と個性は、テーマ(仮説)から湧き出る熱意や、研究方法からにじみ出る姿勢、結果を考察する視点からうかがえる倫理感などに、おのずと示されるのではないでしょうか

 

関係する領域や専門性は極めて学際的で、包含される方法論も、いわゆる公共的な手続きを踏む数量的研究から、理論概念研究、場合によっては質的なモノグラフまで多岐にわたります。よく言えば多彩で魅力的、異分野連携が不可欠であり、大変興味深いテーマがたくさん在る世界です。しかし、それ故に、アイデンティティーを失いかねない事態も起こりえます。・・・私の専門はいったいなんだろうか?

 

こうした多様性に宿る本質とは、いったいどのように培われるのでしょうか?それには、研究内容や領域に目をむけるばかりでなく、どこで、だれと、どのような、どんな時代や未来に向けて、誰のために行ったか?こうした問いに向き合うことが、必要なのかもしれません。保健福祉学に関わる研究者や実践者の存在意義と個性は、テーマ(仮説)から湧き出る熱意や、研究方法からにじみ出る姿勢、結果を考察する視点からうかがえる倫理感などに、おのずと示されるのではないでしょうか。

 

さて、これからの大学院に求められる活動として、いくつか想起するポイントがあります。大学が、これまでの義務教育延長の場となりつつある今、学部教育でおこなわれる研究業績、産学連携、地域貢献は、その内容と方法が近似せざるを得ません。少子化による入学者数の減少と大学数のアンバランスが故に、運営が持続困難に陥りかねない事態さえ憂慮されています。質の平均化により、各大学の個性が平均共通項的なテーマに集約されていくことは、自明ともいえます。今後、関係資本、魅力資本、信頼資本、ブランド資本など、目に見えにくいリソースを作り上げる場は、一部の有名大学を除き、大学院にこそ潜在すると考えています。現段階で、可能性のあるアクティビティのアイデアが、いくつかあります。

 

1. 学内コンソーシアムから 介護福祉系・工学情報系・医療食品薬理系などのベンチャー創世

2. 多領域連携教育実習体験指導者の育成と外部からの受入れ

3. コンサルテーション・ステーション(スーパーバイズ機能やフィールタンク機能)と情報発信(メディア)機能を持つ大学院へ

 

学内(県内)の他専攻や研究科との協働、地域のOBGや関係専門職の大学への参画、ポッドキャストやレクチャーの動画配信などによる対外発信を通じ、私ども専攻は、さらに切磋琢磨していきたいと考えています。

 

今、2016年、世界には強烈な分断の兆しが見えかくれし、多様な価値観の鋭いせめぎあいにあふれています。ウエッブ2.0による世界では、小さな揺らぎや波動は、またたくまに拡散し、予測の難しい非線形の創発を示すといわれます。あたかも生き物のような自己組織化により、相互作用以上の影響があらわれます。これは、ささやかな肯定的な発信にも当てはまる、複雑系ゆえの事態です。とするならば、地方の中小私大の大学院一専攻からの活動発信が、時に世界へと影響をあたえるかもしれません。

 

真の連繋と協働に向けて、これから入学される、今学ばれている学生のみなさん、指導される先生方、興味関心をお持ちのご縁ある方々に、このメッセージを送る所以です。

 

どうぞ、これからの保健福祉学専攻を、注目してください。