2020年8月28日金曜日

第18回日本スポーツ精神医学会総会・学術集会のおしらせ

 表記大会を主催いたします。ウエッブ開催になります。興味深いご発表や、趣向こらしたコンテンツもございますホームページにアクセスください。守秘義務・個人情報の遵守、著作権の保護、医療専門職としての倫理基準の厳守、以上を満たす方は、会員登録の上でご参加ください。参加無料です。

http://jasp18.kenkyuukai.jp/special/?id=30743

小林佳乃子さん作成の紹介動画です



2020年7月22日水曜日

大学院生 岡本隆寛氏の原著論文のご紹介

私の指導する博士後期課程院生 岡本隆寛先生(順天堂大学)の原著論文が刊行されました。

リハビリテーション連携科学 Vol.21 no.1 p11-22
「統合失調症者の利用施設および就労状況の違いや情緒的支援、セルフスティグマとリカバリーとの関連性」


2020年4月3日金曜日

COVID-19の心理社会的影響ー「分断の伝播」ともいうべきウイルスの戦略

先日のBSフジのプライムニュース(3月下旬)で、イタリアに関係の深いゲストの方々が、大変興味深い考察をされていた。もともと家族や友人と会話や身体表現を最大限生かして密接なつながりを大切にしているお国柄、そうした生活スタイルや価値観がかえって感染にはマイナスに働いた、COVIDー19がこうした人々の培ってきた伝統や文化の礎を根底から揺るがしかねない、と言う指摘である。
これに示唆を受け、この2−3ヶ月の状況を通じて、拙いながらもいくつか気づいたことがある。まだ文献的考察や他の言説をきちんとあたっていないので、もしかしたら同様の意見を既に述べていらっしゃる方がおられるかもしれない。あくまで予備的私見として今日の段階では留めつつ、ささやかななコメントをしてみたい。


要点は、人心の分断が様々なフェイスで顕在化する、それがCOVID19の心理社会的インパクトの怖さではないか。

生物学的な致死率や感染力については、既にオフィシャルな情報がある通り、エボラほど致命的ではないものの、約2割が重症化すると言うが、軽症者も8割にのぼるらしい。感染力も新型インフルエンザほどではないが、スーパースプレッダーと呼ばれる現象も起きうる。急激に重症化し人工心肺を必要とする人がいる一方で、罹患しても無症状の割合が多いとの情報さえある。いずれにせよ、すごく危険なのか?、多くの人は大丈夫か?、どちらにも捉えうる特性を有している。当然、専門家たちも、その両面を伝えることになり、伝え方や文脈によっては、いずれか一方に偏って捉えられやすい。パニック回避か、注意喚起優先か。
結果として、自粛か?過剰反応か?と言った議論が起きたし、2−3月の実社会では、経済活動と感染予防という二律背反的な矛盾が生れた。4月2日の現状では、世界の状況にも鑑み、感染防止に全体が舵を切られていると言って良いが、ここに至るまでに様々な分断や衝突があったことも事実であろう。
次いで明らかになったのは、世代間の分断である。COVID19は高齢者にリスクが高いという事実から、若者の行動に批判や注意喚起が集中した時期がある。他方、感染者が激増し、医療が逼迫している欧州では、集中治療を行いうる事例を年齢により選別せねばならないという、痛ましい報道がされた。
さらに、地域間の分断である。欧米の豊かな国で感染が拡大し、イタリアでは比較的経済的に優位にある北部に爆発的な増加をした。現在もこれが進行しており、経済活動の高い大都市圏で発生が多く、このエリアでの医療キャパシティーを超えた状況が危惧されている。自国が大変な状況で、EU加盟国間でのサポートもなかなか進まなかった様だが、今日段階でドイツがイタリアやフランスの重傷者を受け入れていると報道されている。NYを封鎖するかしないかというバトルや、郊外に逃げる車をナンバーで取り締まるという報道さえもあった。これがもし、発展途上国や貧困地域などの保健医療体制の整っていないエリアに蔓延したら、、WHOはどのように支援できるのか?恐るべきウイルスの戦略である。
日本でも、都心から感染が少ない地域へ逃げる行動を避けて欲しいという自治体町の報道から、絆や団結の名の下でこれを声高に反論した芸能人がおられた。逆に擁護する方もいて、感染症の特性を考えれば無症状だからといって安易に地方に観光や疎開して良いのかという意見も出された。移動制限がより先鋭化した差別につながる恐れと、情緒優先的判断による拡散の懸念、これも分断の一側面であろう。
いずれにせよ、COVID19はこうした生物心理社会的特性により、じわじわと感染が広がっていないエリアの人々の人心を蝕んでいる。特に日本では、感染爆発の一歩手前という状況が長期に渡って継続しており、我々の一喜一憂は日々続いている。
さらに心配なのが、ポストパンデミックトラウマともいうべき、精神的健康へのインパクトである。もちろん最前線で対応にあたる医療関係者や行政職員はじめ、経済的ダメージによるうつ病や適応障害の発症リスくの上昇、元々基礎疾患がおありの方々への二次的影響、感染症に関連する不安恐怖症の遷延、などが懸念される。
COVID19は、情報との向き合い方も含めて、21世期の我々の生活の仕方と切り離すことのできない、極めて厳しい人類への挑戦であるように思う。今できることは、感染を予防し、適切な日々の行動を心がけること。いま、対応にあたっている方々の健康も、心からお祈りする。









2020年2月14日金曜日

ESSENCEという概念:Early Symptomatic Syndromes Eliciting Neurodevelopmental Clinical Examinations

ESSENCE(Early Symptomatic Syndromes Eliciting Neurodevelopmental Clinical Examinations)は、ASSQなどを開発した大御所Christopher Gillbergが、昨年12月の児童青年精神医学会にて講演された。大変に勉強になったと同時に、それをうけた前後のシンポジスト(友田先生など)のコメントからも刺激を受けた。
これは「神経発達に関する臨床検査の必要性を励起する小児期早期症候群」とでも訳される概念で、乳幼児期に発症する発達上の問題や精神神経行動上の症候には重複合併が多く、その境界が不明瞭であることが強調されている。横断的時点で診断評価するだけでなく、縦断的に様々なサインを呈する子どもたちとして認識し、関連機関や多職種が連携してフォローし、それに応じた心理社会医学的支援を構築する必要性を提案している。
このなかには挑戦性反抗性障害、ADHD、ディスレクシア、協調運動障害、知的障害、ASD、チックやトゥレット障害、反応性愛着障害、境界知能などが包含される。
生来の生物学的素因や高次機能特性(中間表現型としての脳構造機能やリスク/ 関連遺伝子など)、胎生から周産期に至る環境因、乳幼児期の養育愛着状況などが複合的に関与し、表現型としての行動特性はさまざまなカテゴリーに該当したり、キャッチアップやセットバック、さらに2次障害が併発する。個別の症候群に拘泥するよりも、ESSENCEとして包括的に見守ることが肝要という意見である。
早期支援療育が有効な例も当然存在し、「発達障害」としてのバリアフリー(構造化や視覚化など)は当然だが、「神経発達症」としての治療介入可能性も心理社会生物的各側面から広がりつつある。昨今愛着関連ペプチド(オキシトシンやプロラクチン)も注目されており、ASDよりはむしろRADや発達性トラウマの事例に有用かもしれない。脳の臨界期に言及する研究者も多く、乳幼児早期から的確にスクリーニング、フォローアップし、家族も含めた支援的アプローチが、まさしくessentialに求められよう。その意味で、奥野先生との共同研究であるSACS-Jを広く本邦の乳幼児健診に導入し、ASDのみならずESSENCEの視点から予防発見支援の更なる拡充を期待する。
研究的には、経時的な中間表現型としての脳機能や神経心理所見の追跡、愛着関連ホルモンや抗酸化サプリメントなどの安全性と有効性の治験など、興味関心が尽きない。