2020年2月14日金曜日

ESSENCEという概念:Early Symptomatic Syndromes Eliciting Neurodevelopmental Clinical Examinations

ESSENCE(Early Symptomatic Syndromes Eliciting Neurodevelopmental Clinical Examinations)は、ASSQなどを開発した大御所Christopher Gillbergが、昨年12月の児童青年精神医学会にて講演された。大変に勉強になったと同時に、それをうけた前後のシンポジスト(友田先生など)のコメントからも刺激を受けた。
これは「神経発達に関する臨床検査の必要性を励起する小児期早期症候群」とでも訳される概念で、乳幼児期に発症する発達上の問題や精神神経行動上の症候には重複合併が多く、その境界が不明瞭であることが強調されている。横断的時点で診断評価するだけでなく、縦断的に様々なサインを呈する子どもたちとして認識し、関連機関や多職種が連携してフォローし、それに応じた心理社会医学的支援を構築する必要性を提案している。
このなかには挑戦性反抗性障害、ADHD、ディスレクシア、協調運動障害、知的障害、ASD、チックやトゥレット障害、反応性愛着障害、境界知能などが包含される。
生来の生物学的素因や高次機能特性(中間表現型としての脳構造機能やリスク/ 関連遺伝子など)、胎生から周産期に至る環境因、乳幼児期の養育愛着状況などが複合的に関与し、表現型としての行動特性はさまざまなカテゴリーに該当したり、キャッチアップやセットバック、さらに2次障害が併発する。個別の症候群に拘泥するよりも、ESSENCEとして包括的に見守ることが肝要という意見である。
早期支援療育が有効な例も当然存在し、「発達障害」としてのバリアフリー(構造化や視覚化など)は当然だが、「神経発達症」としての治療介入可能性も心理社会生物的各側面から広がりつつある。昨今愛着関連ペプチド(オキシトシンやプロラクチン)も注目されており、ASDよりはむしろRADや発達性トラウマの事例に有用かもしれない。脳の臨界期に言及する研究者も多く、乳幼児早期から的確にスクリーニング、フォローアップし、家族も含めた支援的アプローチが、まさしくessentialに求められよう。その意味で、奥野先生との共同研究であるSACS-Jを広く本邦の乳幼児健診に導入し、ASDのみならずESSENCEの視点から予防発見支援の更なる拡充を期待する。
研究的には、経時的な中間表現型としての脳機能や神経心理所見の追跡、愛着関連ホルモンや抗酸化サプリメントなどの安全性と有効性の治験など、興味関心が尽きない。