2014年10月17日金曜日

精神科医療機関の未来を予見する-Yとの対話 クリニック編

Y 最近、心療内科やメンタルヘルス科のクリニックが増えていると聞きましたが、精神科と違うのでしょうか?

U おっしゃるとおり、ユーザーからするとわかりにくい面がありますね。心療内科は、あくまで内科ですから、内科疾患を基本的に診るところのはずですね。ご自分の専門に加えて、心身医学を学ばれた医師がおられる機関、という位置づけが、本来の姿かもしれません。

Y メンタルヘルス、という言葉をはじめ、横文字にするとなんだかスムースな感じがしますね。

U ほんとうは「精神保健」、という意味ですから、疾病や病気の診断治療、という狭い意味の精神医療よりも幅広く、やや公衆衛生より、すなわち予防や啓発、健康増進、早期発見の意味合いが大きいと思います。精神疾患を主に診療する医療機関であれば、やはり精神科、という当たり前の標ぼうが、わかりやすいと思いますが。

Y いろいろ勝手に科の名前を付けてもいいのですか?

U 厚労省は、平成20年4月1日より、医療機関の標榜診療科名の見直しを行いました。いくつかの決まりがあり、精神科関係では、児童精神科や老年精神科が認められています。心療内科は、あくまで内科のスペシャリティの一つとして、例えば消化器内科や循環器内科と並列するるわけです。実際は、精神疾患が厚労省の定める5大疾患に入ったとはいえ(地域医療の基本方針となる医療計画に盛り込むべき疾病、2013年より)、まだまだ抵抗感やスティグマは現存している、ということの裏返しかもしれませんね。

Y どのくらい増えているのでしょうか?

U これに関しては、データを見ると一目です。精神科・神経科・心療内科の総数は、平成8年は6000台、以降順調に伸び、平成14年9000台、平成17年11000台、しかし20年に上記のように神経科は神経内科(脳梗塞、パーキンソンや片頭痛など、神経の病を診る)と標ぼうが改まり、重複が減少した分総数は9400台にさがるも、この10年でそれぞれ2倍以上増えたことになります(厚労省の調査報告もここで止まっています)。その後この数年で、精神科診療所数が約15%、患者数で30%ほど増加しているといわれます(TKCより)。

Y こんなに増えて、経営は大丈夫なのですか?

U どうも大都市では、新規の開業は難しいと、知人から聞きました

Y 先日、良心的な診療をされている管理者が、経営上の衝突で更迭されたとのうわさがありましたが

U そうですか、そもそも医療と経営、日本の保健医療システム上、大きな葛藤と矛盾があるのでしょう。手厚く熟練の医療が必ずしも報われず、一律に数をこなさないと利潤が上がらない、どこでも(一般病院も専門施設も)だれでも(若手も神の手も)およそ保険点数は同じ、時間をかけるほど赤字になる、、、他人ごとではありません。

Y 素人からすると、精神科はゆっくり話を聞いてくれると思うのですが、違うのでしょうか?

U 残念ですが、時間と値段はそれほど比例しません。保険点数はご存知ですか?2年に1回、中医協で審議され、医療行為の値段が決まりますが、ほぼ全国一律です。信頼できる調査によれば、保険診療上経営が持続するには、1時間に再来の患者さんを5-6名は診察しないと、利潤が生まれないとのことです。もちろん、短くとも実のある内容もあれば、長く診察すればよくなるとも限らないのかもしれませんが、、。

Y では、10分程度で難しい精神療法を行い、さまざまな心理社会要因や生活、養育状況をうかがい、場合によっては家族職場の方々との話し合い、治療の説明し、自己選択をいただく、神業ではないですか?

U 常識的に、だれでも簡単にはできませんよね、当事者の不満が募って当然ですし、医療者側も、同様なのかもしれませんね。

Y これも素人考えですが、様々な疾患では、それほど時間がかからず診察が終わる場合と、かなりシビアな状況とで、かなり時間のかけ方や医療技術の差もあるのではないでしょうか?外科でたとえれば、比較的浅い傷の手当と、複雑な外傷が重なっている場合とでは、手術室でかかる時間やスタッフの数、機材も違って当たり前ですよね。

U その通りだと思います。残念ですが、重い病理の方々にかける時間は採算性がとれず、チーム医療が必須にもかかわらずPSW(精神保健福祉士)や看護師さえいないクリニックも少なくありません。心理士に至っては国家資格が現在審議中ですので、保健医療サービス専門職として待遇できない難しさが残っています。しかし公認心理士法案がとおれば、サイコセラピーやサイコメトリーを医療現場で行うチームスタッフとして、大きな力となって下さるでしょう。

Y 最近のクリニックでは、新しい患者さんの予約が取れない、1-2か月先になる、といったことも聞きます

U そうですか、新患を一切取らないところも、場合によったら?精神障害の多くが慢性疾患の特徴を持つと考えれば、現状の皆保険診療システムですと、再来だけで成り立つ場合もあるかもしれません。

Y 患者さんがあふれ待ち時間が減らない悩みをもつところがある一方で、過当競争や口コミにより集客が思うようでないところもあるのですか?

U そうですね、古典的な精神医療、すなわちかつて内因と言われた統合失調症や躁うつ病を薬物療法主体で生活指導を加えて対応する、といった流れだけでは、多様なニーズにこたえられない場合も増えていますから。

Y どなたか著明なコメンテーターがメディアで、メンタルクリニックは現代の駆け込み寺か?といったようなコラムを書かれていたのを思い出しました。クリニック受難時代、とも語っていたような?

U これもデータによりますが、増えている診断群や状態像は、従来の中核的疾患、たとえば統合失調症やうつ病ではなく、適応障害領域の心理社会的要因の色濃い事例、様々な不安障害と抑うつとの合併が、割合を増しているといわれます。前者は、これまでのスタンダードなスキルでまあまあ対応できますが、後者は医療だけでは何ともしがたいわけですね。医療行為によって、負債を抱えた会社の経済状況をすくったり、うまくいかない夫婦家族関係をまるくおさめたり、勉強しなくて落第した学生を進級させたり、、常識で考えてもむりなわけですから。ソーシャルワークや行政福祉機関との連携、場合によっては家族調整や司法との関連も出てまいります。せいぜい、休養や心身の調整、見方考え方の若干のヒント程度さしあげること、ですか。魔法の杖は、残念ながら、医師や医療機関にございません。

Y こうしたケースは、通常の診療では、赤字非採算につながりやすいのでは?

U およそ公的私的に、インテンシブはつけられませんでしょう。しかし、実際お困りの方がいたら、医師だけではどうにもできませんから、たとえばPSWのお力がぜひとも必要なところです。ほかにも、双極性特徴を持つ気分変動、発達障害の特性による困難、そしてトラウマが潜在している難治遷延例などが、背景として、時に主訴としてクローズアップされています。特にトラウマ臨床の経験からは、多くの困難事例に、複雑なトラウマ体験があることを実感しており、アセスメントと対応力がカギになります。これは学会などの特別講演で、浜松医科大児童精神科教授の杉山先生、対人関係療法の先駆者である水島先生、子供や女性のトラウマケアの権威である白川先生、らも強調しておられますね。

Y そうしますと、クリニックとはいえ、児童青年期の発達理解や、トラウマケアの体験、薬物から心理社会まで、かなりの熟練かつ専門のスキルが必要と聞こえます。

U これまた残念ですが、こうした臨床家が活躍するには、いまの保健医療体制は、わびしすぎますね。民間の医療機関に経営度外視を求めても、なかなか手を上げないでしょうし、志あって勤めたとしても、バーンアウトか孤立、理事会で更迭、せいぜい程々さばき外来への忸怩たる逆戻り、、、。公的機関が担うといっても、トリアージュやマネージメントがなされないシステムでは、小児科や産科外来と似た構造が起きえます。そもそも専門の外来を有する公的診療施設さえ、あまりみあたりませんからね。

Y それでは、これからクリニックに起きる変化と、対応はどうしたらいいのですか?

U これは経営セミナーではありませんので、決して医療経済に特化した話ではありません。しかし、結局のところ、持続可能な良質サービスを提供するには、経営も考慮しなくてはならないのです。ですから、いわゆるコンサルタント会社のセミナーで言われることと、図らずも方向が一致するかもしれません。ちなみに、あちらに参加すると2-3万円かかるそうですが、、。

Y ここでは無料でお聞かせ下さるのですね

U はい。まずいくつか、ポイントを。
私の主張は一貫しており、
1.医師だけでクリニックを回すのは非効率的(医師業務上、医療経済上、顧客サービス上)で、PSWに最大限活躍してもらう
2.再来新患システムをトリアージュ・マネージメント(キャンセルを減らす、事例内容に沿って事前セッティング)
3.他の機能を併設もしくは移管する(各種デイケア、メンタルドック部門、自費心理センターなど)

Y まずはじめに1について、伺えますか?

U そうですね。たとえば、診察10分程度でも、PSWやCP、地域行政サービスとの連携で、ニーズに沿った相談と方向性が提案ができます。いわば、ノットとなる場を提供するわけですね。そもそも医師は医療行為にと仕事に専念でき、医師不足の時代、経営陣にとっては重要です。むずかしいケースはもちろん、一般の事例では社会復帰やリハビリテーションとしても有用で、コストパフォーマンスと顧客満足度が高まります。集客にも役立つでしょうね。

Y 2についてはいかがですか?

U 新患のニーズや状況をインテークすることにつきます。応じて、時間枠にうまく振り分けます。キャンセルに対する事前の取り決めが必要で、保険外併用が認められる予約費も一案です(選定療養)。再来に関しては、直る患者さんはどんどん良くなり、空いた枠にフォローアップのケースが入る、そうしますと、相当黒字になります。なお、病院と併設されている場合など、その補完に徹するとか、慢性再来や、一部専門外来(20歳未満は児童相談所や教育機関と連携すると保険点数が高くなります)、トリアージュされた新患外来などに特化することもありえるでしょう。

Y では、むずかしい、よくわからない、手間のかかる事例はどうでしょう?

U 実は、どこかで誰かが支えているから、他のスタッフが、地域のほかの病院が、同じ法人の部門がうまく回っているようにみえるのではないか?と思うのです。例えば、A先生が、腕と労力をかけて、某所で支えている、ですとか、、
やはり、専門性や熟練性などは、この業界では、間接的に採算につながり、マインドやスタッフのやる気につながっていく、と信じます。

Y では、3について、お願いします

U これは、まさしく冒頭の5大疾患に関係して、メンタルヘルス健診、メンタルドッグ、そして、予防と啓蒙に医療費財源を移管していくことに絡む話です。次の機会に、アイデアをお話ししましょう。



0 件のコメント:

コメントを投稿