2009年11月25日水曜日

立花隆 氏のNHK番組「思索ドキュメント がん 生と死の謎に挑む」

なかなかに、深く考えさせられる番組であった。ガン細胞は、生命進化そのものである、というアンチテーゼ。

ワインバーグ教授(MIT)いわく「生きていること自体がガンを生む」。生体は毎日計り知れない何億という細胞の再生を繰り返し、体と意識を一貫して保っている。その際、細胞のコピーミスがちょっとでも起きると、ガン細胞になる。

「ミスが起きないこと自体が、奇跡」

RAS(がん遺伝子)が異常を起こすと、再生情報が暴走し、増殖が止められない。がん遺伝子は厖大な数があり、その全体像をひとりの研究者が捉えることさえ不可能という。

「複雑系の様相、まるで宇宙そのもの。」

「分子標的薬」は異常信号を抑えることを目的に開発されたが、がん細胞は機能を学び、違うルートで再生を続ける。分子標的薬は、効き目を失う。ガンは防御法を次々と考えて、薬の裏をかく。

「創発と組織化」

進化の過程で重要な働きを持つ遺伝子「HIF-1」、ガン細胞にたくさん存在する。これは、酸素が行き届かない、低酸素領域で働く。HIF-1は低酸素でも生き残れる能力、移動する能力を身につける。転移と浸潤の力。「ガンは低酸素に順応、生き残ったガン細胞は、放射線や抗がん剤にも抵抗する強力な細胞になる。(セメンサ教授、ジョンホプキンス大)」

「実は、生命が原始のころから有している、進化の源とも言えるのが、このHIF-1」

ジョンソン教授の実験では、HIF-1が無い胎生ラットは、細胞がバラバラになり死んでしまう。胎生初期、生体は低酸素状態で、細胞が分化するにはHIF-1が必要。酸素を必要とする生物が、進化の過程で獲得した遺伝子なのであった。HIF-1は海と陸を行き来した動物には極めて重要で、進化の中で、ずっと保存してきた。

「生命の歴史が作ったものがHIF-1、それがガン細胞も作っている」

がんは進化で獲得した遺伝子を多数有している。3万年前の恐竜にもガン細胞が発見され、あらゆる生物のガンには同じ遺伝子が使われているという。

免疫とがんについて、ポラード教授(アルバートアインシュタシイン医科大)がマクロファージの働きを説明する。ガンの組織の中には、マクロファージが大量に集まってくる。しかし、マクロファージはそれを食するのではなく、ガン細胞の移動を手助けしている。一見、裏切りを行なうマクロファージ。しかしマクロファージは、本来の機能を果たしているに過ぎない。通常、マクロファージは傷口を修復するために集まり、移動や成長を促す物質を放出する。同じことがガン組織でも行なわれ、マクロファージに導かれるようにガン細胞が移動する。

「生命保持の力そのものが、ガンをはぐくむという、矛盾」

クラーク博士(スタンフォード大学)によれば、ガン幹細胞を移植したラットのみで、がん細胞が増殖した。抗がん剤は「ガン幹細胞」には効かない。ガン幹細胞は、通常の「幹細胞」に極めてよく似ている。ガン幹細胞を攻撃すると、幹細胞を破壊してしまうかも。

IPS細胞の研究者である、山中教授(京都大学)の話も興味深い。IPS細胞の最大の問題は、がん化の懸念であり、IPS幹細胞とがん幹細胞の違いは紙一重でもある。命を再生するIPS細胞と、命をうばうがん細胞は、極めて接近している。

「人は、イモリやヒトデの様に体を再生することをあきらめることで、生殖年代までガン化をなるべく防ぐ手立てを選択したのではないか」

ヒトが選択した進化の道、長寿によって必然として明らかになる、ガン。

立花氏いわく、「人類の半分はガンになる。1/3がガンで死ぬ。ガンはDNAの病気で、生命維持・存続の仕組みそのものに、ガンが由来する。では、生命とは何か?」

そして、こう言う。「人間は、死ぬ力を持っている。ジタバタしないで生きることが、ガンを克服するということではないだろうか。」

http://www.nhk.or.jp/special/onair/091123.html

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